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​虎徹三兄弟ツイ小説ログ

【帰り人、待つ二振り】

「長曽祢兄ちゃん、元気かな…」

遠征の為に本丸を出て行った一人の兄の帰りを浦島は縁側に座りながら待った。

足を左右交互にぶらつかせながら白い雲が浮かぶ青い空を眺める。季節は冬に入ったものの、雪はまだ降っていない。しかし、外気に触れるだけで身が冷えた。

内番衣装の甚平だけでは凍えてしまう。初期の頃から本丸で皆を纏める誇り高き刀剣で己の自慢の兄でもある蜂須賀は寒そうな弟の為に袢纏を準備してくれた。最初は着慣れず食事の時や茶を入れる時には袖の部分が重く感じて、もう少し身軽な着物を求めたが今では毎日それを羽織った。慣れって凄いなぁ…

内番が終わり、やる事がなくなった浦島は長曽祢のいない退屈の時間をただひたすらに待つ。袢纏を着ているからと言っても外の気温は低く白い息が口から吐き出される程には寒かった。けれど、寒いのはそれだけではない。

「長曽祢兄ちゃん……」

小さな声でぽつりと名を呼ぶ。勿論、返答はない。

何かが足りないような感覚。何かが欠けたような感覚。心にぽっかり穴が開いたようなその寂しさをよく経験した事がある。

この寂しさも寒いと言えるかもしれない。

寂しいから寒い。おかしい話かもしれないけれど。

「早く帰ってきて、長曽祢兄ちゃん」

足を動かすのを止めて俯いた。

この寂しさを埋めてくれるのは遠征に出かけてしまった兄だけ。

凍り付きそうな心を温かくしてくれるのは兄だけ。寂しさに視界が潤み始めてきた。

すると肩に誰かの手が触れて横に座る誰かと体は触れて驚きに顔を上げた。

「浦島、寒いね。」

隣に座っていたのは真作の兄である蜂須賀だった。

「うん、寒い。けど、蜂須賀兄ちゃんがいるから、半分暖かいよ」

「俺も、お前がいるから半分暖かい。待とうか、贋作を。いや、長曽祢をね」

いつもは長曽祢に強く当たる蜂須賀も欠けた兄弟の寂しさに寒さを感じていたのだろうか。

浦島は頷いて隣にいる兄を抱き締める。少しでも寒さを抑えられるように。

布越しから伝わる互いの体温に落ち着きを感じて静かに瞼を閉じる。縁側で二人抱き締め合ったまま兄の帰りを待った。

可愛い弟たちの姿を庭の木の裏から長曽祢に見つめられているのも知らずに。

その後蜂須賀に怒鳴られる長曽祢であった。

【クリスマス】

 紅色に染まっていた庭は気付けば一面白に塗り替わり、深々と降り積もってゆく雪を眺める。廊下を歩くだけで足裏は冷え、外気に触れる縁側は外の寒さ、その物である。室内だと言うのに白い息が口から吐き出され、より寒さが物語った。

「寒いなぁ……」

 半纏を着て両手を擦り摩擦で熱を起こして気休め程度でも温まろうとするが、寒さは変わらず。その場で足踏みを始めれば逃げるように自室へと戻った。

 刀剣男子たちは一人一部屋ずつ与えられていたが、この寒い冬の季節ともなれば話が変わり、灯油や電機の消費量問題の為か、兄弟刀は纏めて過ごすように審神者に言われてしまう。元から兄弟のいない刀も2,3人で過ごすようにと言われ、仲の良い者たちとなら良いが、あまり仲が良くない刀たちが同じ部屋になればブーイングの嵐だ。しかし、審神者の言うことは絶対である。逆らう事は出来なかった。

「あ、兄ちゃんたち。先にお部屋に居たんだね。」

 蒼い半纏を脱いで真冬だと言うのに夏の格好をした浦島は兄たちに挟まれて真ん中の開いた布団に潜り込む。冷えた両手で隣に眠る兄たちの手を取り握った。

「冷たっ」

「浦島、風邪を引くからあまり廊下で長居は駄目だよ。」

 弟に握られた手の冷たさに二人の兄は驚きに肩を跳ねさせた。

 長曽祢は呆れた表情で、然し口許は笑みを浮かべて、その手を強く握り冷えた手を温めようとする。

 蜂須賀は軽く叱責するも弟には甘い。長曽祢動揺に手を強く握って冷えた手を温めようとする。二人の兄に挟まり温かい手の温度を感じながら瞼を閉じた。

「わかってるよ。へへっ、兄ちゃんたちがこうして温めてくれるから、俺、平気なんだけどな~」

 弟の笑顔に二人の兄は表情を綻ばせて緩く笑んだ。幸せな兄弟との時間。

「俺、こうして三人で一緒に居られるならずっと冬でもいいかも。おやすみ、蜂須賀兄ちゃん。長曽祢兄ちゃん。」

 そう言いながら瞼を閉じる弟を二人の兄は見守りながら寝息を立てる音が聞こえれば目を合わせて二人揃って浦島の頬へ口付けを送る。

「俺たちがクリスマスプレゼントを上げなきゃいけないのに」

「おれたちが貰ってしまったな」

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