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大好き!

 クリスマスというのは刀たちにとってはあまり意味のない行事ではあるものの、この本丸の審神者にとっては年に一度の大事な伝統行事だった。

 

大広間に刀たちを呼んだ審神者はクリスマスについて熱く語り始める。クリスマスは神様に祈りを捧げる行事であること。

 

 そして、美味しい物、特に美味しい肉料理が食べられること。サンタさんという赤い衣装を纏った人が人の子に夜な夜な寝ている合間にプレゼントを置いてくれること。食後のケーキは絶品であること。プレゼント交換も楽しみの一つであること。好きな人と共に過ごすのが一番最高のクリスマスであること。クリスマスとは、聖なる夜に行う行事であること。

 

 真剣に聞く者から、話を聞き流す者まで様々だったで、審神者のクリスマスに対する熱意は人一倍だと思われた。他の審神者のクリスマスについては見たことも聞いたことも無い為、状況は皆わからないままではあるが。

 

 クリスマスと聞いて、まず、最初に動き出したのは一期一振だった。兄弟の多い粟田口の長男である一期一振は可愛い弟たちに夢を与えようと審神者に更に細かい話を聞く為に歩みを進める。そして次に動いたのは江雪左文字である。一期一振と同じく短刀の弟を持つ江雪は動かずにはいられなかった。一期の後を追って共に審神者の元へ向かったのだ。その後ろを場違いとも思える豪快さで付いて歩くのは岩融である。今剣の為にサンタになろうと審神者の元へ向かうのだ。さて、なぜかそこに脇差の堀川国広も混ざっている。彼はサンタさんを信じる和泉守兼定の為にサンタについて更に詳しい内容を知りたがっていたのだ。個性豊かな者たちが集う本丸だが、どこまでも個性豊かである。

 

 お洒落好きの加州清光、乱藤四郎、次郎太刀はクリスマスの為に器用に衣装作りに取り掛かる。常に最先端を行きたい彼らはまた別の意味でクリスマスを楽しもうとしていた。

 

 粟田口の短刀たちは楽しそうに審神者の話したサンタの話を信じてクリスマスについての話で盛り上がち。そこに和泉守兼定が混じっているのは言うまでもない。

 

 皆それぞれにクリスマスを楽しみにしている中、関心を持たない博多藤四郎や御手杵は庭で雪だるまを作って遊んでいた。現実主義かつ見た目とは違った大人な思考を持つ薬研藤四郎と厚藤四郎。微妙な立ち位置にいる愛染国俊と蛍丸は己の兄たちについての話で盛り上がる。クリスマスにあまり興味は示さないものの、一番クリスマスに力を入れようとする一期一振と、何も期待していなさそうに見えて期待している明石国行について、ツッコミを入れない訳にはいかないと困った兄の話題で花が咲くのだ。

 

 クリスマスとは兄弟刀が一番盛り上がる行事なのだろう。浦島虎徹は本丸内で仲間を見掛け、そのやり取りを見る度にそう思った。

 

 己の兄たちはどうであろう。

 

 無口で不愛想な太郎太刀でさえ、血の繋がっていない義理の弟にすら、クリスマスの事を考えて頭を悩ませているのだ。修行のことしか考えていなさそうに見える山伏国広は二人の弟の為にプレゼントに木彫りをしている。意外な刀たちまでも、自分たちの兄や弟の為に動いているのに、己の兄と来たら喧嘩ばかりでちっとも楽しさを感じずにいた。

 

 周囲に嫉妬しても皆に迷惑を掛ける事だとわかっている。それでも、ただ悲しかったのだ。クリスマスくらい仲良く過ごせないものか。どんなに悩んでも、きっとこの状況は変わらないのだろう。気持ちを飲み込んで持ち前の明るさと元気で気分を紛らわせることにした。

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